マラソンランナーであれば、「30km(もしくは35km)の壁」を一度は経験しているのではないでしょうか。
この「壁」とはレース終盤になって、呼吸は乱れていないのに脚が動かなくなる現象であり、「バテて」レースが急にキツくなるのです。
これを経験すると「練習不足だったかな?」と考える選手が多いのですが、筋グリコーゲンが枯渇したことも原因として考えられます。
徳島大学総合科学部の小原繁教授は、運動機能を科学的に解析し、長距離ランナーに様々なアドバイスを行っています。
(このコンテンツはランナーズ 2013年02月号(Amazon)34ページを参考にしています)
筋グリコーゲン=走るエネルギー
小原教授は、筋グリコーゲンを筋肉内に溜め込まれた”エネルギーの貯金”としています。
車のガソリンにあたり、ガソリンがなくなると車が動かなくなるように、筋グリコーゲンがなくなると筋肉は動かなくなります。
レースにおいて「壁」を感じバテてしまう理由として、小原教授は次の二点を挙げています。
2 オーバーペースで序盤に筋グリコーゲンを無駄使いしすぎた
車にはメーターがついているので、ガソリンの残量はひと目でわかります。しかし人間の体にメーターはないので、「どの程度”ガソリン”が体内に入っているのか」「どれくらい残っているのか」がわかりません。
そのため体内のガソリンが少ない、もしくは中盤までにガソリンを使い切ってしまうと、30~35km付近でガス欠になってしまうのです。
小原教授はこのように解説されています。
フルマラソンは言い換えれば、「限りある体内の筋グリコーゲンをいかにちびちびと節約しながら、ちょうど42kmで使い切る走り方を目指すか」というスポーツ。この意識がある人ほど、上手にフルマラソンを走ります。
それでは、筋グリコーゲンをうまく貯蔵し、かつ節約しながら走るにはどんな食事やトレーニングをすれば良いのでしょうか?小原教授の解説を紹介します。
筋グリコーゲンを蓄える食事と練習・休養
ランニングで体内の筋グリコーゲン枯渇状態を作り、その後ご飯、うどん、パスタなどの高炭水化物食で一気に回復させると、体内の筋グリコーゲン合成と貯蔵が促進されます。
筋グリコーゲンの合成・貯蔵は睡眠中に促進されるので、練習後の睡眠時間を7時間程度は確保しましょう。
その日の夕食~翌日の朝食は糖質をしっかり摂取します。
これを繰り返すことで、筋肉にグリコーゲンを貯蔵できる量(タンクの大きさ)自体もだんだん増えていきます。
レース一週間前から筋グリコーゲンローディングを行う具体例を紹介します。
その間糖質摂取を減らす(ご飯なら茶碗半分程度だけ、など)
直前3日は完全休養か数kmのジョグのみ 炭水化物の割合を増やした食事をとる 野菜、果物は意識して多めにとる 睡眠は7時間確保する
これにより、ガソリン満タンでスタートラインに立てる
グリコーゲンを節約した走りを身につける
ガソリンが満タンになっても、”燃費”が悪くてはゴール前にガス欠になってしまいます。グリコーゲンを節約できるペースをキープしなくてはいけません。
このペースは「楽である~ややきつい」といった感覚が目安になるのですが、レースでは気持ちが高ぶったり、周囲の雰囲気に影響されてオーバーペースになりがちです。
またコースは平坦でないことが多く、多くのケースで普段走っている状況とは違うので通常とは負荷のかかり方が違います。
そのため節約ペースで走るには、日頃の練習で「楽である~ややきつい」感覚を体に覚えさせなくてはいけません。自分の体の中に基準ができれば、コースの違いにもペースが左右されなくなります。
そのためのトレーニングとして、小原教授は次のような方法を勧められています。
「楽」と感じるペースで1km走る
その感覚で20km走りきれるかをチェックする
失速してしまったら1kmあたり10~20秒遅くしてリトライ これを繰り返す
1kmを楽なペースで走り、その感覚のまま20km走れれば「筋グリコーゲン節約ペース走」の完成です。
その感覚をキープして、距離を延ばしてみてください。
小原教授によると、節約ペース走ができないランナーは、身体的に最適なペースよりも少し速い速度で走る傾向があるそうです。