女子バスケットボール日本代表を率いたトム・ホーバス監督が、著書「チャレンジング・トム」で指導と言葉遣いについて解説されています。
通訳を介しての指導から、監督自身が日本語を使っての指導に変遷していく過程がわかります。
同書の53~56ページから、一部を抜粋して紹介します。
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意図や感情を伝える重要性と通訳をなくした経緯
ホーバスコーチは考えを伝えることの大事さを強調します。
相手とのリレーションシップを築く上で、コミュニケーション、言葉のやりとりは欠かせません。言葉で自分の思いを伝えることはなによりも大切なことではないでしょうか。
私がアメリカ人だから強く感じるのかもしれませんが、日本人は建前で話すことがあります。それはよくないと思います。
やはり本音で話してこそ、伝わるものがあるのです。
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米国から来日してしばらくは通訳を介して話していましたが、自身の日本語理解度が上がると違和感を感じる場面が増えてきました。
私は1990年に来日して以来、合わせて20年以上、日本に住んでいます。妻は日本人です。
アメリカ人にしては日本語を話せるほうだと思います。もちろん来日した当初はまったくわからないので通訳についてもらっていました。
しかし10年近くも日本にいて、しかもその間ずっと日本語の勉強はしていたので、たまに私の言った英語が、通訳を通すことで間違って伝わっているとわかるようになるのです。
「違うよ。私が言っているのはそういう意味じゃないよ」と。
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自身の意図と感情を正確に伝えるため、やがて通訳を頼まなくなりました。
選手時代は最後まで通訳が間に入っていましたが、私としてはだんだん「通訳は必要ないかな」と思うようになっていきました。だからコーチとして日本に戻ってくるとき、通訳はつけなくていいと思ったのです。
コーチとしての私は、何よりも選手たちとのリレーションシップを大切にします。
通訳が入ることでニュアンスが異なって伝わったり、私のエモーション(感情・思い)が直接伝わらなくなってしまう。それではリレーションシップがうまく作れません。私はそれが嫌だったのです。
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「何をやっているんですか?」といった言葉を使う理由
伝える言葉にも気を遣っています。
またリレーションシップを築く上でネガティブな言葉は必要ありません。
たとえば「お前」だとか、英語で言えば「You」といった、相手を指さすような言葉は使いませんでした。
「こうしろ!」という命令口調もなく、オリンピック後のテレビなどで何度も取り上げられましたが「何をやっているんですか?」「ちゃんとボールを持って!」といった、厳しさは残しながらも、なるべく丁寧な言葉を使うように心がけました。
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なぜこうした言葉を選ぶのでしょうか?
そこには私がアメリカ人だからという理由もあります。いくら私が勉強をしたといっても、日本語の本質まではつかめていないでしょう。ニュアンスが異なって伝わることだってあるかもしれない。
身長2メートル3センチの私が命令口調で言って、必要以上に威圧感を与えることも避けたかった。
言葉はあくまでもリレーションシップを築くためのものですから、相手伝わらなければ意味がありません。
私は自分が話したら、相手の仕草や表情をよく見ています。たとえば、もし選手たちが首を捻るような仕草をしたら、私の日本語を理解していない証拠です。
そうであれば、もっときれいな言葉で言ったほうがいいし、もう少しわかりやすく説明したほうがいいと考えます。アジャストです。
簡単で、わかりやすい言葉を使ったほうがお互いにとっていい。丁寧な言葉にはそうした力があります。
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丁寧な言葉でも相手に伝わらない場合は?
それでも選手がわからないこともあります。そのときはさらに説明をします。その説明でまたリレーションシップを深めていくのです。
JX-ENEOSサンフラワーズでも一緒に戦った宮澤夕貴はよく「トム、それってどういう意味?」と聞いてきました。そこでまた話をする。
ちょっと面倒くさいと思われるかもしれませんが、話をしたら少しずつリレーションシップが作れていくのです。
「わからない。もう話したくもない」と思われるよりも、よほどよい関係を築けます。
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ホーバスコーチはこうした言葉を心がけたことで、指導者として進歩したと実感しています。
実のところ、私は我慢のできない性格です。すぐにカッとしてしまうところもあります。
それでも日本でコーチングをするようになって、少しずつ我慢ができるようになりました。コントロールがうまくなったといえばいいでしょうか。
丁寧な日本語でしっかり伝えたいと考えているから、感情をそのまま出すことなく、いったん間を置けるようになったのです。
日本に来て、その国の言葉を使うようになって、伝えることの本質に触れ、私は以前よりもよいコーチになったような気がします。
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