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”腿を上げる””足首、膝は伸ばせ”が間違いである根拠を、大阪体育大学の伊藤章教授(当時)らのグループが解説されています。

脚をスイングさせる動きの利点がよくわかります。




「ピストン系」よりも「スイング系」が優れている理由

まず、膝を固定した”ルイス型”は速度のロスが少ない特長があります。

股関節を同じ角度だけ動かす場合、膝を伸ばすキック動作より、膝を固定したルイス型のキック動作の方が脚が大きく後ろへ動く。
 
言い換えると、膝の屈伸は進行方向とは向きの違う動きになるため、速度を下げる要因になっているのです。
 
走るという動作は、足が着地してブレーキがかかり、そこから加速する、という”減速””加速”の繰り返しです。
 
後者の動作をしているルイスの走りは、着地時のブレーキ力が少ない。だから、加速力も少なくてすむ。
 

 
”筋肉のエネルギー蓄積は10秒ももたない”つまり”100mをフルエネルギーで走りきることはできない”と言われていましたが、ルイスのような”省エネ走行”なら可能だったのです。
 
ちなみに、前者の動きは、陸上短距離のみならず、スピードスケートやスキージャンプなど他の競技でも、今では「良くない」とされています。

理にかなった動作は、陸上競技に限らず理想的だということがわかります。
 
さらに解説を続けます。

ランニングの際の下肢の動きをみると、屈伸つまり上下のピストン系の動きと、股関節を軸とした振り子のような前後のスイング系の動きという2つの基本的な運動によって構成されています。
 
従来の走法はピストン系の動きを重視していました。しかし、ルイスの走法は、脚全体を股関節を使って振るイメージ、つまりスイング系の動きが原動力となっていたのです。
 
ルイスの四肢は、筋肉隆々ではなく、いたって華奢でしたよね。それはピストン系運動をあまり必要としていないからです。代わりに、股関節の動きが不可欠なため、お尻がとても大きかった。

この研究結果は92年1月、各県の指導者が集う陸連コーチ研修会で発表されました。
 
しかし集まった指導者達からの反応は、”きちんと測ったのか!””今までの指導法が間違いだと言うのか!”といった疑問・非難の嵐でした。
 
この主張が浸透するまでには数年を要したのです。
 
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