バスケットボールでは背の高い選手が有利なのは常識です。

それでは平均身長が低いチームは勝てないのかというと、そういうわけでもありません。
 
女子バスケットボール日本代表のトム・ホーバス監督が、著書「チャレンジング・トム」でこの件に言及されています。
 
高さに劣るチームでも勝つにはどうすれば良いのでしょうか?
 
同書の149~152ページから、一部を抜粋して紹介します。
 
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現代バスケは「”ビッグマン”なしでも勝つ方法はある」

データを重視する現代バスケでは、背の高い選手が勝利の必須条件ではなくなっているそうです。

バスケットボールは、そのゴールの高さ(3メートル5センチ)から、身長の高い選手が有利だと言われています。
 
ただし、それがすべてではありません。
 
少し専門的な話になりますが、現代バスケットボールは「アナリティックス・バスケットボール」といって、データに基づいてチームを作ったり、ゲームプランを考えたり、戦術を遂行したりします。NBAの多くのチームもそれを取り入れています。
 
そのアナリティックバスケットボールには、ビッグマンと呼ばれる身長の高い選手がさほど重要でないという見方もあります。
 
もちろんいるに越したことはないのですが、いなくても勝つ方法はある、と言ったほうがいいでしょうか。
 
「スモールボール」とも呼ばれる、たとえ身長が低くても、選手の位置取り(スペーシング)と精度の高い3ポイントシュートをうまく活用すれば、勝つ可能性を高めることができる。
 
それが世界のバスケットボールの潮流にもなりつつあります。
 
女子バスケ選手

「スモールボール」は、日本代表のフィジカルをカバーするため必要な戦い方でした。

その「スモールボール」はまだ女子のバスケットボール界では世界的にも浸透していません。そこに目をつけたのです。
 
正直に言えば、私はやや古い考えの持ち主です。「スモールボール」も決して好きではありませんでした。むしろ身長の高い選手を使う、昔ながらのバスケットボールのほうが好きでした。
 
でも日本には身長の高い選手がいません。渡嘉敷来夢も怪我で出られない。いや、彼女がいたとしても、世界的に見れば女子日本代表は身長の低い部類に入ります。
 
戦術は違ったかもしれませんが、渡嘉敷がいても、スペーシングと3ポイントシュートを活用する「スモールボール」はやっていたと思います。
 
そこはアジャスト(対応)です。日本に足りないものがあれば、私の好き嫌いで考えるのではなく、勝つために必要な戦略を考え、対応していく。それがヘッドコーチの仕事です。
 
バスケ選手

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「高い」チームが「低い」チームに20点差で敗北 戦術の大切さ

ホーバス監督はビッグマンのいるチームを率いて実績を残していました。

そうした「小さいチームが大きいチームに勝つ」という考え方を、私は国内リーグで学びました。
 
私がコーチングをしていたENEOSは昔からビッグマンを擁するチームでした。渡嘉敷だけでなく、大崎佑圭さんもそうだし、諏訪裕美さんや山田久美子さんといった力強いビッグマンもいました。
 
宮澤夕貴だって国内では身長の高い選手です。その高さを活かしながら、2019-2020シーズンまで国内リーグ11連覇を成し遂げたのです。
 
バスケットゴールとボール

しかし高さで勝るENEOSが負ける試合もあったのです。

そのENEOSに対して、トヨタ自動車アンテロープスや三菱電機コアラーズ、富士通レッドウェーブといった身長で下回るチームが、さまざまな戦術を駆使して挑んできました。
 
富士通には20点差で負けたこともあります。
 
そのときは「どうして?」と思いました。どうして身長の高いENEOSが、身長の低い富士通に負けるの?と。

この敗北はホーバス監督がスモールボールの有効性を認識するきっかけになりました。

しかしそれがすごく勉強になりました。彼女たちのチームにはいいシューターがいる。
 
「スモールボール」をやってくるから、渡嘉敷たちビッグマンがゴールから離れたところまで守りに出なければいけません。
 
ビッグマンがゴールから離れたところに出ていけば、ゴール近辺の、一番シュートが入る確率の高いところのディフェンスが手薄になります。身長の高さが活かせなくなるのです。

これは、海外チームと比べて平均身長の低い日本代表にうってつけの戦い方です。

その考え方を日本代表にも取り入れればいい。国内で平均身長の一番高いENEOSが嫌だと感じるバスケットボールは、平均身長が高い世界のチームにとっても嫌だと感じるはずです。
 
国内で身長の高いチームにいたからこそ、身長の低い相手チームから学ぶことができました。
 
選手選考もそうです。相手チームに、ENEOSにとって、ひいては戦略・戦術を考える私にとって嫌だと感じる選手がいたら、その選手の良さを日本代表で使えないかと考えたのです。
 
バスケットボール選手

現代のバスケットボールは身長の高低に関わらず、さまざまな戦い方、強化法が可能なのです。

視点はひとつではありません。対戦するチーム、人、ものの中にも自分の長所を伸ばしたり、短所を克服させる学びはあるものです。
 
それを広い視野で見られるかどうか。ステップアップのヒントはさまざまなところに見え隠れしています。それを見逃さないようにしたいものです。

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